8回目の夏

 ルーシーと8回目の夏を迎えた。2012年オリンピック開催地がロンドンに決まった同じ月に、ルーシーは我が家にやってきた。あの頃、時間の経過はものすごく遅く感じたけれど、これからどんどん速く感じるんだろうなぁ。
 思えば、愕然としたり、途方に暮れたりする日々だった。7年が過ぎて、互いの関係が、キツネとタヌキの化かし合いから熟年夫婦のようになり、そろそろ驚くこともないだろうと思っていたけれど、それなりに驚かされている。
 最近の驚きは、ルーシーが(あ)のつぶやきや独り言を、意外なほど正確に理解しているということ。
 (あ)はF公園を歩きながら、練習場所をどうしようかと考える。F公園には、練習ができる場所が3箇所ほどある。散歩の時間帯や、地面とルーシーの足の状態、他の利用者や子供の多さ等を考えて、その日の状況に合わせて決める。 
 先週「上の芝生にしよっか」と言うと、ルーシーはそちらに向かってグイグイとリードを引っ張っていった。

 まぁ、「上の芝生」とか「下の芝生」とかは、ルーシーもよく耳にしてきただろう。上とか下とかは家の中でも耳にするだろうし。

 しかし「○○館の裏」は別である。表・裏は、ルーシーが理解するはずがないから、こちらが少なくともルーシーに向かって話すことはないと思う。先週、歩きながら「○○館の裏は、草ボウボウで虫が多いかなぁ」とつぶやいたら、ルーシーは、その場所に向かって進もうとした。

 加えて、昨日のこと。
 いつものようにF公園に向かって歩いていると、駐車場が見えてきた。急激に暑くなったから、ルーシーはハァハァと息が荒い。一旦休ませて水を飲ませた方が良いかと思った。駐車場の近くには、木陰に風が通る休憩所があり、一応水道が設けられている。ただし、冬は凍結防止のために水道がストップしていた。そのせいで、休憩所にルーシーを待たせて、トイレの水道まで走った記憶があった。
 昨日は、氷の入ったペットボトルは持参していたが、まだ溶けておらず、水はルーシーが飲めるほどの量がなかった。ボトルに水を足さないといけない。芝生まで行ってから休むか、それとも、どこかにルーシーを係留して、トイレに走るか。
 ふと休憩所の水道のことが頭をよぎり
「あそこの水道は出ないかもなぁ」
 とつぶやいた。
 すると、ルーシーは、ためらうことなく、休憩所に向かって先導していくではないか。
 こちらは「あそこの水道」としか言ってないのに、なんで、それが休憩所のことだと分かったんだろう?それも、1回くらいしか利用したことがないのに。

 なんでだか今でも分からないが、確かなことはひとつ。
 ルーシーは聞いてないフリをしているが、聞いているらしい。
 このタヌキ野郎め。
 そして、(あ)は独り言が多すぎるようだ(爆)。