怒りの業務連絡

 (あ)は、こう見えても下戸で、アルコールを口にすることは少ない。また、実家に酒を飲める人間はいなかったもので、どうも酔っぱらいの生態&理屈は全く理解できない。
 2週間前、午前3時頃、1階で寝ていたら庭から人間が歩きまわる音がして目が覚めた。「泥棒か?」と思ったが、音は直ぐに消えたので、「私ったら、寝ぼけて勘違いしたのね」と、また寝てしまった。4時頃、目を覚まして廊下に出ると(た)のいびきが聞こえた。
 寝苦しい夜のことだから、窓や扉を開け放して寝ている。2階の物音も階下まで聞こえるのだろうと思った。1階で家事と散歩の用意を済ませ、ルーシーを連れて玄関のドアを開けたところ、何やら転がっているものを発見。
 (た)がYシャツを脱ぎ、ランニング姿で玄関ドアの前で寝ていた。
 つまり、庭を歩きまわる音と大音量のイビキは、(た)のものであり、1階の網戸を通して屋内の(あ)の耳に届いていたらしい。
 我が家は蚊が多いので、こんなところで寝ていたら蚊に刺されてしまう。何よりも大音量のイビキは迷惑だ。
 「ちょっと、こんなところで寝んといて。近所迷惑やん」と声をかけ、体を揺さぶるも、一向に起きる気配ナシ。
 そうこうしているうちに、周囲が明るくなってきた。節電・節約と周囲が暗い頃から起きて、せっせと家族のために働いている自分がアホらしくなってきた。「もう知らん」と、そのまま散歩に出かけた。
 さすがにバツが悪かったのか、その日はおとなしく早い時間に帰宅していたけれど、他人に迷惑をかけたという自覚は全くないらしい。酔っぱらいに反省を求める方がマチガイなのか?

 さて、今朝未明のハナシである。
 夜中の3時過ぎに、何やら物音がしたが、(あ)は眠くて起き上がれず。4時半頃「ヤバイ!寝坊した!!」と飛び起きた。さっさとルーシーを散歩に連れて行かないと。慌てて廊下に出ると、階段の下で(た)がうずくまっていた。
 驚いて「どうしたん?」と訊くと「関節が動かない」と言う。
 「どこの?」
 「肩から首にかけて」
 「何をしたん?」
 「ハッキングで・・・関節が動かなくなった」
 「はぁ?ハッキング?コンピュータのハッキング?」
 「ハッキングがあるから、ワイヤレスを切って」
 「夜、私が寝る前に電源は落としたはず。」
 「良いから見て!」
 「・・・落ちてます(額の青筋1本)。」
 「コンピュータは?」
 「コンピュータもプラグを抜いてあります(額の青筋2本)。
 「で、コンピュータがハッキングされたら、どうしてアンタの関節が動かなくなるの?」
 「分からんけど関係がある。関節が動かない。イタイ」
 「熱いシャワーを浴びたら、少しはほぐれるかもよ(額の青筋3本)。」
 「アカン、動けん」
 「お医者さんに行かなイカンのやない?」
 「うん」
 医者に見てもらうまでは、どうしようもない。それでも「イタイ」を繰り返すので、タオルを濡らしてレンジで温め、首から肩あたりにかけてやった。そうしたら、少し正気に戻ってきた模様。

 「・・・50肩やと思う」


 ・・・はぁ???


 思わず「ハッキングはどうした?」と突っ込みたかったけど、グッとこらえる。こっちは朝の仕事が押せ押せになって、酔っぱらいの戯言に付き合っているヒマはない。
 ただし、病院で見てもらえるのは、5時間先のハナシ。動けないほどの痛みを5時間も耐えるのは、さすがに可哀想だ。
 「シップか痛み止め・・・ってバフ○リンくらいしかないけど、要る?」
 「バ○ァリンで良いから、ちょうだい」
 バファリンと水を飲んで、その場で、しばらく唸っていたが、2階に上がって行こうとする。
 「リビングで寝てたら?ヘタに2階に上がって、今度は下りれなくなったら困るんとちゃうの?」
 「もう良い」
 こちらがあたふたと救急病院を調べている間に、2階からは大いびきが聞こえてきた。


 ・・・なんやねん!!!(激怒で髪の毛総立ち)
 
 何様のつもりじゃ!!!!!

 後で酔が覚めた(た)に「ハッキング」の話をしたら、全く覚えていなかった。「なかなか、おもろいやんけ」

 酔っぱらいの理屈に振り回されるほど不毛なことはない。
 今度酔っ払って、こっちに迷惑をかけたら、罰金10万円だから。覚えておけ。