方向音痴の思い出

 昨晩放映のバク○ン。日本銀行の取材で非常に懐かしかった。こちらは大阪だったし、20年強も前だったけれど、画面から感じる雰囲気は変わってなかった。
 (あ)は外銀の資金部で日銀を3年間ほど担当していた。当時は専用ネットがなく、決済は小切手ベースだし、決済時間は前場後場の2回があり、今思うと何から何まで、かなりアナログだった(笑)。
 日銀関連でミスをすると、先方から注意が与えられる。注意には、いくつかレベルがある。一番厳しいのは、支店長が呼びつけられて叱られるというもの。
 幸い(あ)が担当した時代には、支店長への注意は1回もなかったけれど、先輩の時代にはあったそうだ。当時、土曜日は半日業務だったので、スタッフは上から下までラフな服装で職場に来ていた。ミスが発生したのは真夏の土曜日。外国人の支店長は、午後から家族と遊びに行くためアロハとジーンズという出で立ちで出社しており、あろうことか、同じ格好で日銀に謝りに行ったとか。よくも「テメー、ホントに反省してんのか?!」と叱られなかったものだ。この一件以来、外国人支店長の間では、ロッカーにスーツを1着キープするのが慣例になったそうだ。
 (あ)がやったミスは軽微なポカミスが多く、従って書類での注意が多かった。上司や自分が日銀に出向くことは、ほとんどなかった。提出書類にページ数の連続表示を抜かしたとか、元号を使わず西暦で書いたとか、ミスまでつまらないものばかり。ツメが甘い性格が丸出しのミスだった(笑)。
 ある日、翌日に提出予定の書類を確認してもらうため、日銀に出向くことになった。有価証券を持参するのでタクシーで向かったのだが、到着したのは、なぜか裏の通用口だった。表ならエスカレーターを上がれば、目の前が営業場なのだけど。建物の外を通って裏から表に回るのは面倒だなぁ。
 「まぁ、行けるだろう」とタカをくくって裏から建物内に入った。職員以外は通用口で登録した上で、入館バッジをもらわないといけない。道順を聞いて営業場で用事を済ませ、そのまま表から出ようとすると、警備員さんに止められた。
 「入館バッジを返却しないと外には出られません」そして、返却には裏口に行かないといけないと言う。
 ブツブツ言いながら裏口へ向かったのだが、(あ)は天下御免の方向音痴である。おまけに書類のことばかり考えていたので、来た道も、ほとんど忘れてしまっていた。
 営業場には警備員さんがたくさん詰めている。要所要所にパイプ椅子を設置して座っている。ところが階段を降りると、警備員さんが極端に少なくなる。「まぁ、そこらへんで職員さんを捕まえて訊こう」と思ったが、人影がない。非常用のインターホンも見当たらない←20年強前のハナシだから、今はセキュリティが厳重でしょうが。
 気がついたら、完全に迷子になっていた。普通の庁舎と違って壁に階数が書いてないから、一体自分が何階にいるのかもわからない。地下階まで降りてしまったようだ。
 長い廊下には、音もなくヒンヤリとした空気が流れるのみ。廊下でキョロキョロと人の姿を探していると、向こうの方からザッザッという音が聞こえてきた。
 人が来る!裏口への行き方を聞ける!
 と、慌てて音がする方へ行くと・・・
 警備員さん達が隊列を組んで歩いていた。
 それぞれの手には、ジェラルミンケース(爆)。
 先頭の警備員さんが、こちらの姿を見つけて「あぁっ!!」と声を上げた。一瞬、手が警棒に触れていた。
 こちらが情けない笑顔を浮かべて「すいませ〜ん、迷子になっちゃって・・・」と言うと、苦笑しながら裏口への行き方を教えてくれた。
 恥ずかしくて逃げるように裏口を出て職場に戻った。先輩に迷子の一件を話したら「そこまで潜入した人は初めてだ」と大笑いされた。
 あのジェラルミンケース。やっぱゲンナマだったのかなぁ?