反省

 今日はルーシーや他のワンちゃんではなく、(あ)の反省について書く。(あ)とルーシーが夕方の散歩で立ち寄る先には、ある男の子がワンちゃんを連れて来る。この子は、気が向いたとき、ルーシーと一緒に遊ぶこともあって、どうやら(あ)に対して親しみを持ってくれているらしい。
 ただし今日の彼は、非常に乱暴だった。発する言葉も行動も、周囲の人たちを傷つけていた。11才という年齢だと、それくらいは当たり前なのかもしれないが、一緒に来ていた自分の友達に対して、容姿をわらい、周囲にいた飼い主に対して聞こえよがしにワンちゃんの悪口を言う。冗談だとしても、側で聞いていて気持ちが良いものではなかった。
 「妙に、今日は攻撃的だなぁ。とげとげしいことを言うな」とは思っていたが、その矛先が(あ)に向けられた。こちらは相手の4倍近くの年齢なので、冗談として適当に受け流していた。ところが、彼は何の理由もなく、急に(あ)の頭を手で叩いた。
 現場を見ていたクッキーのお母さんが、言葉で彼に注意を与えてくれた。彼には、その注意が聞こえなかったのか、それとも無視したのか、そこは定かではない。(あ)は、何も言わなかった。クッキーのお母さんの注意で十分だと思ったからだ。ところが、次の瞬間、彼は(あ)の左の頬を叩いてきた。
 (あ)の左目は、もともと視力が弱い。仕事の半分以上は書類を読むことなので、目薬は欠かせない。最近、特に細かいものを読むことが多く、眼底疲労が進み頭痛がすることも多い。左頬の目のすぐ側を叩かれて、(あ)は過敏に反応してしまった。彼の手首を掴み、腕をねじり「何するの。それは止めて」と言った。彼は驚きの表情を浮かべ「うん」と答えたが、(あ)の側は離れず、何事もなかったかのようにふるまっていた。
 しかし、この反応に一番驚いたのは自分自身だった。自分の4分の1の年齢の子に対して、注意を与えるにしても、腕をねじる必要はなかっただろうに。もっと適当な対処法があったはずなのに。
 自分に子供がいないからか、(あ)は子供達への接し方に困ることが多い。実際、昔よりも子供たちを取り巻く環境は複雑になり、こちらが良かれと思って与えた注意を、善意として理解してくれる子供も大人も少なくなっている。確かに「正当防衛」ではあったけれど、それでも、もっと良い接し方があったのではないだろうか?
 一体、私はどうしたら良かったのかしら?

ルーシーのおまけ

 何という詩だか忘れてしまったが、お父さんが幼い娘のことを描いたものがあった。自分が仕事に疲れて寝ていると、いつもは娘はお腹の上に乗って遊びをねだる。娘が出かけることになり、お父さんが寂しがるだろうと、自分の代わりに大事にしていた人形をお父さんのお腹に載せて出て行く。お父さんは、自分に対する娘の気遣いが嬉しくて、目は覚めているものの、人形の重みを感じながら、しばらく寝そべったままでいる、というもの。親子のやさしい日常が描かれている。

 昨夜は(あ)は疲れ切っていた。仕事は能率が上がらず、子供にはうまく接することができず、ルーシーは沼に入りかけて足を風呂場で洗うことになり、何もかもうまくいかない。廊下でひっくり返っていると、冷たい床がオーバーヒートした頭には気持ちが良い。つい、眠気が襲ってきてウトウトしていた。

 廊下はL字型で、(あ)が寝ている場所とは別の一辺で、ルーシーはボールを囓り、ピーピーと鳴らしていた。いつもなら(あ)が一緒に遊んでやるのだが、そんな気にもなれない。一方、ルーシーもオモチャを取り上げられると思っているのか、近づいてこない。リビングのテレビはついていたが、音が少しずつ遠くなってきた。

 どれほど時間が経ったのか分からないが、ドスンという音とともに鳩尾に衝撃を感じた。ウッ、苦しい、息ができない。目を開けたら、黄色いボールをくわえたルーシーが、(あ)の上に乗っかって、こちらの顔を覗き込んでいる。「どーしたの〜?お母さん」と言いたげな表情だ。

 苦しい中で「お母さんは寝てたの。あっちで遊んでおいで、ルーシー。」と言う。ルーシーは(あ)の体の上で黄色いボールをピーピー言わせ続ける。心配してくれてるの?それともボールを見せびらかしてるの?

 「ルーシー、お母さんは大丈夫だから」と言うと、ルーシーは「あ、そ」という感じでボールをくわえたまま、去っていってしまった。

 米袋より重い娘は人の体に乗ってはいけません。