ルーシーのボール遊び

 夕食と歯磨きを終えると、ルーシーは廊下で黄色いハリハリボールをくわえる。(あ)が廊下の隅に座り「ルーシー、一緒に遊ぼう」「持ってきて」と声をかけても、ルーシーはボールをくわえたまま、見せびらかすように(あ)の前を歩くだけで、廊下のもう一方の隅に行ってしまう。そして上目遣いで、こちらの様子を窺いながら、ピーピーと音を鳴らす。「これは私のボールだもんね〜」と言っているつもりなのかも。
 つまらないので(あ)はもうひとつ同じボールを出して、ルーシーに背を向け、壁に向かって蹴ってみた。いわゆる壁打ちである。
 すると、ルーシーは(あ)の背後からやって来て、蹴っているボールに飛びかかる。そして、また隅に持って行ってはピーピーと鳴らす。ルーシーの口にはボールが1つしか入らないので、(あ)は床に残されたボールを取り上げて、また壁打ちを始める。また、ルーシーがやって来て(あ)のボールを取り上げる。
 そういうことを何回か繰り返していると、ルーシーは、今度は壁打ちをしている(あ)の背後から、顔だけを覗かせるようになった。「遊ばないの?」と言いたげに、口には黄色いボールをくわえ、興奮した時に出す「ガウガウ」という声を出す。
 (あ)が「一緒に遊ぶの?じゃあ、ボールちょうだい」と手を出すと、ルーシーはボールをくわえたまま、また隅に行ってしまう。一方「引っ張りっこがしたいの?」と言うと、ルーシーは自分の口元を(あ)の手の方に寄せてくる。(あ)がボールを掴むと、ルーシーは必死になって引っ張り始める。前足を突っ張り、尻尾を立て、後ろ足で床を蹴り、頭をガクガク揺らして(あ)からボールを奪い返そうとする。鼻の穴が全開し、「ガウガウ」という声は、興奮がエスカレートするにつれ「フンゴー、フンゴー」に変わり、ボールがちぎれてしまうのではないかと、こちらが心配するほど引っ張る。(あ)が「アウト」とコマンドを出しても、ルーシーは、なかなかボールを離そうとしない。
 ボール遊びって、こういうもんだっけ?そして、なんで、この遊びにはなかなか飽きないの?
 普段、公園で「ボール遊びをしよう」と誘っても、ルーシーは全くやる気がない。(あ)がボールを投げても、ボールの行方を見ようとしない。よしんばルーシーがボールを追いかけたとしても、それは自分以外のワンちゃんのボールであって、そのワンちゃんの邪魔をするか、追いかけっこをしようと誘うためだけだ。
 もしかして、ルーシーは、ボール遊びが「他の人やワンちゃんがボールで遊んでいるのを邪魔すること」だと理解しているのか?大人になれば、飼い主との遊びが楽しくなると聞いていたが、誤解していたら、一生そんな日が来ないではないか。
 ムムムー、どうしよう。