やめっちまえ!!

 シツケ教室でドッグダンス。この日のルーシーは動きが遅いし注意も散漫。全くやる気を見せない。指示に従わず、勝手に動作をしてしまう。1時間の授業だが、A先生は犬の集中力に合わせて随時休憩を入れ、水も飲ませるように配慮してくださっている。また、(あ)もダンスの時は普段とは違うおやつを用意して、ルーシーにはやる気を与えるように努めている。それなのに、本人は「疲れた〜」と言わんばかりに、教室の隅に行き伏せて自主休憩を入れてしまう。
 当惑する(あ)に、先生は「これは、ワガママですね。」本当に疲れた、本当に暑いという場合には、もっとハァハァと呼吸が荒くなり、舌が横から出るらしい。ルーシーは、単に指示に従いたくないとダダをこねているだけなのだという。
 3種類のおやつを用意していたので、別のおやつに切り替えてみるも、これも効果がない。ひとつひとつの動作ができたら、こちらの頭が痛くなるほど高い声を出して、大げさに褒めてやるが、すぐに自主休憩に戻ってしまう。また苦手な技ではなく、一旦ルーシーができるものに要求レベルを落として、やらせて褒めようとするが、本人はこちらの指示を無視。どうやらもはや「アメ」では動かないようだ。
 ここで問題は、ダンスをさせるのに「ムチ」を出して良いものかという点だ。(あ)が読んだ文献(主にアメリカ)によれば、ダンスをさせるためには絶対怒ったり罰を与えたりしてはいけない。犬には、ダンスは楽しいものだというイメージを維持させなければならない。犬に与えるのは、ムチではなくアメに限るという。という訳で、(あ)はダンスに限っては、ルーシーを叱らないようにしてきた。
 「私だったら、叱ります。」と先生。服従訓練とダンスと何が違うのか?飼い主の指示に従わないのは同じ事だから、きちんと「いけない」と叱らなければならない。
 先生の仰ることももっともなので、今回は叱ってみることにした。ツイテ歩く間に自主休憩場所(もはや彼女の頭の中で固定化されているらしい)に行こうとするので、体を押さえて注意する。歯を剥いて抗議するので、体を仰向けにして抑えつけ叱る。叱った後は「おいで」と呼んで、来たら食べ物を与える。
 ところが、ルーシーは叱られた後、食べ物を見せて呼んでも(あ)の元に来なかった。それどころか、こちらを怖がって目を見ないようにして周囲を歩き、自主休憩場所に行ってしまう。一見これは、ルーシーが叱られて凹んだように見えるが、実際はそうではない。腹の中では「シメシメ、これでお母さんの言うことをきかなくても、良いもんね〜」と思いながら、可哀想な私を演じているだけだ。この時点で(あ)のハラワタは煮えくりかえっていた。
 そもそもルーシーにドッグダンスをさせようと思ったのは、股関節に問題を抱えた犬でも長く続けていける運動だから、そして以前に通っていた教室で「ダンス・モドキ」を習った時から、本人が楽しそうだったから。それだけの理由なのだ。(あ)自身はダンスをしたいなどと思ったことはなかったのだ。自分がここまで私を引っ張ってきたクセに、今更その態度はないだろう!
 煮えくりかえったハラワタの熱が、延髄を通って後頭部から火を噴きそうになったので、この日の授業はここまでにしていただく。先生に申し訳ない気持ちで一杯だ。
 教室を出ると悔し涙が出てきた。一体誰のためのダンスなんだ?やめっちまえ!やめっちまえ!!