ええ格好しぃ

 ・・・と関西では言う。最近のルーシーはシツケ教室以外でも「ええ格好しぃ」をするようになった。子犬の頃から公園や自宅では全く指示に従わなかったのに、教室に行くと妙におとなしくなり、きちんと「お座り」をしたりアイコンタクトをとるようになったり。大好きなU先生やN先生に褒められたい一心で「良い子」を演じていたのだろう。ところが、相手もプロだ。授業中にルーシーが時々(あ)に歯を剥いて化けの皮がはがれると、すかさず「アレ、ルーシーも、そんな顔をするの?」と仰る。するとルーシーは、ちょっと上目遣いになり舌なめずりをして、次の瞬間「エヘッ」と笑っていた。本人は愛想を振りまいたつもりらしい。手遅れなのに。
 散歩中に「ええ格好しぃ」をすることもあった。歩いている間に他のワンちゃん+飼い主さんに会うと、飼い主さんに向かって鼻を鳴らし一通り飛びつくマネ(リードをつかまれた状態で空中で『ホバリング』)をしてみせ、それが効かないとなると急におとなしくなって(あ)の横で座るのだ。
 飼い主さんに「賢いね〜」と言わしめると、頭を下げて近づき体を撫でてもらう。相手がおやつを出してくれたら御の字だ。教室でも散歩中でも「ええ格好」をしたら良いことがある訳で、そういう意味では実利的なのだ。
 一方(あ)がボール遊びをすると、普段は全く気合いが入らない。ボールを追いかけるのは大好きだけど持ってくるのはイヤなのだ。ボールをくわえて近くまでは寄ってくるが、1メートルくらい離れたところに「ペッ」と出してしまう。出したら次のボールを待ちかまえる場所に移動しようとする。(あ)が「ちゃんと持ってきて」と言うと、ルーシーはもう一度ボールをくわえて数十センチまでは近寄るが、それでも「ハイ」と手に渡してくれたことがない。
 ところが最近では他にワンちゃんが一緒にいると、それほど楽しくないはずのボール遊びでも、なぜかやる気を出すようになった。相手の飼い主さんがおやつを持っているかどうかは、問題ではないようだ。飼い主さんは自分のワンちゃんにボールやフリスビーを投げるのに忙しいのだから、おやつをくれたり、甘えさせてくれたりは期待できない。だから、ルーシーにやる気を出させているのはライバル意識?
 今朝も、甲斐犬のさくらちゃんと並んでボール遊び。二匹ともダッシュで、それぞれのボールを追いかける。さくらちゃんは黄色いボールをくわえたまま、ルーシーの方をチラッチラッと見る。ルーシーは「私は忙しい」とばかりに(あ)とボールしか自分の視界に入っていないフリ。明らかに二匹は張り合っていた。しかし、さくらちゃんのママさんが所用で先に帰宅されると、途端にルーシーはやる気を失いチンタラ走るようになった。「ちゃんと持ってきて」と言われても知らん顔。なんだよ、その態度。
 この時は暑くてムカついたが、後になって考えるとおかしい。ルーシーは、ライバルの存在で格好良く自分を演出しなければならなかった。少なくともルーシーの頭の中では「格好の良いワンコ」とは「おとなしい」「素直に指示に従う」「ボールを一生懸命追いかけ、頑張って持ってくる」ワンコらしい。つまり本来の自分とは正反対の姿なのだ。そこまで分かっていながら、理想の姿を演じなければならないとは。タヌキのくせに、なんだか人間くさいヤツだなぁ。